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2026/06/25 18:53
「本を贈ろう」
ある日の夕方。
店じまいまであと少しという頃、一人の青年がお店に入ってきました。
大学生くらいでしょうか。
少し急いでいる様子で店内を見て回り、やがて一冊のブックカバーの前で足を止めました。
手に取ったのはヌメ革のブックカバー。
革の手触りを確かめるように撫でながら
「イニシャルの刻印はできますか」と尋ねました。
「はい、その場でできますよ」
そう答えると、彼の表情が少しだけやわらぎました。
刻印を入れ、仕上がりを確認してもらうと
「ギフトラッピングもお願いできますか?」と。
「もちろんです」と包装の準備を始めた時
彼はカバンの中から一冊の文庫本を取り出し
「この本も一緒に包んでもらえますか」
そう言って少し照れたように手渡しました。
「妹の誕生日なんです。本をプレゼントしようと思っていたんですが、革のブックカバーも一緒なら素敵かなと思って」
その言葉を聞いた瞬間、なんて素敵な贈り物だろうと思いました。
その革のブックカバーはページをめくった時間も
贈ってくれた人のことも
少しずつ深まる革の色とともに残っていきます。
誰かを想って選んだ一冊の本。
その思い出を包むものとして、私たちのブックカバーを選んでもらえたことが、とても嬉しかったのです。
12年ほど実店舗を併設した革工房を持っていました。今はほどよく田舎に移住して住みながら工房を構えています。毎日、季節を感じながらゆっくりと流れる時間の中で楽しみながら製作をしています。これまでに出会った心に残るエピソードを綴っていこうと思います。(このショートストーリーは実話をもとに少々脚色しています)


