革り小物 Aster*isk

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2026/07/06 18:12

節目のキーケース

ある日、一人の男性がキーケースを探しに来られました。

年齢は40代前半くらいでしょうか。

店内をゆっくり見て回りながら、彼女のものと自分のものを一つずつ選んでくれました。

ラッピングの準備をしていると「ここに鍵も付けてプレゼントしたいんです」と少し照れくさそうに言いました。

新居の鍵かなと思いながら聞いてみると彼は少し間を置いてこう続けました。

「彼女の誕生日にプロポーズしようと思っていて」

思わず私は「それは責任重大ですね」と笑いながらも内心は少し緊張していました。

人生の大切な節目に選ぶ贈り物。そのお手伝いをさせてもらうのですから。

ラッピングしたものをお渡しするとき私は冗談半分で言いました。

「うまくいったら結果を教えてくださいね」

彼は少し恥ずかしそうに笑いながら帰っていきました。

それから数か月。

ふと、あのプロポーズはどうなったのだろうかとそんなことを思い出す日もありましたが、忙しい毎日の中でその出来事は少しずつ記憶の奥へしまわれていきました。

ある日の午後。1人の女性がお店に入ってきました。すると女性がバッグからキーケースを取り出し嬉しそうな表情で言いました。

「おぼえてますか?」

そのキーケースを見た瞬間、私はすべてを思い出しました。

「このキーケースをプレゼントしてもらった日にプロポーズされたんです」

キーケースを選んだ彼もあとから入ってきました。

そして少し照れながら彼が言いました。

「結婚が決まりました」

その言葉を聞いてまるで親戚の話を聞いたような気持ちになりました。本当に良かったと心からそう思いました。

鍵は毎日使うものです。家に帰る時も、出かける時も、何気なく手に取るものです。だからこそ、その鍵を包むキーケースには、思い出も一緒にしまわれていくのかもしれません。

あの日の贈り物が、二人の新しい暮らしの始まりになっていたことがとても嬉しかったのです。


12年ほど実店舗を併設した革工房を持っていました。今はほどよく田舎に移住して住みながら工房を構えています。毎日、季節を感じながらゆっくりと流れる時間の中で楽しみながら製作をしています。これまでに出会った心に残るエピソードを綴っていこうと思います。(このショートストーリーは実話をもとに少々脚色しています)

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